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日本アニメの革新

日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析

 

 

アニメ映画史、最重要変化点を語る。

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日本映画三作品を中心に、歴史の最重要変化点を解説。
白蛇伝」「劇場版エースをねらえ!」「AKIRA」+「ウルトラQ

 

白蛇伝

1958年に東映動画東映アニメーション)の白蛇伝で長編漫画映画が定期的に公開されるようになった。ディズニーのような自然主義のフルアニメーションを採用した。

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YouTubeに公式の予告編があってビックリ(笑)。

 

劇場版エースをねらえ!

1979年。ティーンエイジャーに拡大したアニメブームの中で、テレビアニメの文法で映画を自覚的につくった。その技法の数々は後のアニメの業界水準となって影響力も大きい。

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テレビ版の第1話(1973年らしい)。ラケットを振るSEが笑える。

 

AKIRA

1988年。海外展開とデジタル技術の急成長。最初は攻殻機動隊に注目したが、むしろAKIRAこそが最重要変化点にふさわしい。サイバー時代の原点は攻殻機動隊でなくAKIRA

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アマプラでは別途チャンネル入会が必要なようです。漫画の方がおもしろいけど。

 

鉄腕アトム

1963年に虫プロダクション虫プロ)の鉄腕アトムがテレビ放映開始。白蛇伝鉄腕アトムの二つが原点。リミテッドアニメーションを応用した省力化技法を研鑽(けんさん)し、トメ絵やカメラワーク、撮影技法を駆使した表現主義

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ウルトラQ

1966年の空想特撮シリーズ。マンガの神様・手塚治虫鉄腕アトムがテレビまんがブームを、特撮の神様・円谷英二ウルトラマンが怪獣ブームを巻き起こした。テレビまんがは「アニメ+特撮」とハイブリッド化しさらなる進化が始まった。

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アマプラは有料です。

 

宇宙戦艦ヤマト

旧作は配信していないようです。残念。

世界観主義
何がキャラクターより優先度が高いのか?それが「世界観」である。それも個人レベルでは到底とらえられない、星雲をまたいだ巨視的な世界観である。世界観を人物より前景化し、主役級の役割を与えた。そこが最大のエポックメイキングであり、後の日本アニメ文化の方向性を大きく決定づけたものなのである。なので以下の章でも「日本のアニメは世界観主義を高度化させた」という仮定のもと、話を進めたい。


機動戦士ガンダム

ガンダムはいわゆる宇宙世紀ものしか知りませんが、それで十分な気もします。逆襲のシャアが好きです。

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機動戦士ガンダムは1978年の月刊アニメ専門誌誕生で起きた変化の結晶といえるテレビアニメ作品である。まさに革新、変革と呼ぶにふさわしく、後世に与えた影響は絶大である。なおかつ初出から40年以上過ぎても繰り返し鑑賞される古典にもなっている。

 

注目するポイントは「アニメ作家の時代」と「世界観主義の進化」である。さらにそれを可能とした完全オリジナル作品の形式が重要だと考えている。小説・漫画などのクリエイターに頼らず、絵柄もアニメーター発となった。制作会社が主導的にアニメクリエイターを集め、設定・ストーリーなどクリエイション面のすべてをゼロから開始し、原作権を所持する。そのヒットが大きな進化を呼ぶ。アニメ業界初の作家が大衆に認識されるきっかけをガンダムがつくったのである。

 

もともとテレビ放送は空中分散されて消えるものだった。だからテレビアニメもベルトコンベア式の流れ作業で処していた。その社会通念が激変する。まず出版業界・音楽業界が「くりかえし再生可能な記録」を届け始める。80年代に訪れるビデオソフトの時代の前哨戦である。テレビまんが世代が成人に近づいたのも重要である。アニメの制作現場やメディアの編集部に「自分たちの欲しいものを作りたい」と、ファンからプロを志向する若者が多数出始める。

 

この時期、エレクトロニクス産業がLSI(大規模集積回路)技術の発達で高付加価値商品を次々にリリースし、消費の流れを変えていた。そんな世相もこのムーブメントの追い風となる。家庭用ビデオデッキ、再生専用音楽プレイヤー(ソニーウォークマンなど)、家庭用ゲーム機、マイコンetc…。多くがアニメファンの趣味にリンクし、物欲を刺激した。こうして「消えずに残るものへの欲求」が高まって、「アニメ文化の永続性」が求められるようになった。その点で60年代、初期の食品など大量消費物と連動したテレビアニメブームとは質が根本から異なっている。

 

スタジオジブリ

ジブリ作品も配信していないので割愛します。まあ説明の必要もないかと思います
よんでいるーむねーのーどーこかおーくでー。

現在、宮崎駿監督は「国民的作家」と呼ばれるようになっています。そのきっかけは、2001年、宮崎駿監督の映画「千と千尋の神隠し」でした。興行収入は304.0億円(初公開当時)で2020年に「劇場版鬼滅の刃無限列車編」の403.2億円に抜かれるまで、アニメ映画のみならず日本で公開された全映画の興行収入トップに君臨していました(「千尋」も2016年の再公開、2020年のコロナ禍における再々公開を経て316.8億円に増加しています)。

 

歴代映画興収ランキングを調べると、とにかく宮崎駿監督作品のすごさが目立ちます。2022年12月の数値によれば、第7位は「もののけ姫(97)」の201.8億円(コロナ禍再公開を加算)、第8位は「ハウルの動く城(04)」の196.0億円、第13位は「崖の上のポニョ(08)」の155.0億円。現在のところ最新作の「風立ちぬ(13)」も120.2億円で第27位ですから、トータルで約1千億円です。

 

さらに文化芸術面でも、宮崎アニメは高い評価を受けています。「千尋」が米国アカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞し、ベルリン国際映画祭ではアニメーション映画としては異例の金熊賞を受賞。そして2014年には米国アカデミー賞の名誉賞を受賞し、監督自身が訪米して式典に参加しました。2021年、ロサンゼルスに設立された「アカデミー映画博物館」は、オープニングとしてハリウッド映画ではなく「宮崎駿展」とその関連上映を行ったほどのステータスです。世界中から贈賞され、国内外で研究書も多数出ている点で、間違いなくトップのアニメクリエイターと言えるでしょう。

 

この章ではすでに充分評価された作家性よりも、「それを可能とした歴史の流れ」に注目します。そこには「東映動画虫プロダクション」の二大潮流のせめぎ合いも大きく関わっています。他にも「日本製アニメの備える特徴・世界観主義」と不可分な事象が多々あるのです。

 

たとえばジブリの誕生と初期の躍進は、アニメ雑誌アニメージュ」に支えられたものでした。「宇宙戦艦ヤマト」と「機動戦士ガンダム」の受容でアニメ作家に注目が集まった次に、「作家としての高畑勲宮崎駿」にスポットが当たった。多段ロケットのように、2段目、3段目と点火していったのです。打ち上がったジブリが重力圏を振りきって高みに行ったプロセスには、こうした社会的注目の順番があるわけです。

 

攻殻機動隊

ジャパニメーションといえばAKIRA攻殻機動隊でしたね。

dアニメでも見れるようです。

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日本のテレビアニメは最初期の60年代からアメリカや諸外国に輸出され、ビジネスとして外資を稼ぎ、海外の児童にも多大な影響を与えた。70年代、80年代になると、輸出先で改訂(ローカライズ)が加えられ、クレジットが現地人の名前に置き換わるなど日本製であることが隠される事例も多くなる。とはいえ、ロボットアニメや名作アニメなどは日本で独自に発達したものなので日本製であることに気づくファンも増え始める。

 

さらに80年代後半から90年代中盤にかけて、少年ジャンプ、少年サンデーなどの原作アニメが主として欧州圏に多く輸出されるようになる。ことに児童向けのテレビショーと日本製アニメをまとめて放送していたフランスでは、日本のアニメクリエイターへのリスペクトが高まり、社会的・芸術的な認知が得られるようになっていく。アメリカやイタリア、スペインなど諸外国の映画界や学術界からも、改めて評価を受けるようになり、次第に日本で作られたままの状態で受容されることが定着していく。

 

それはビデオソフトの時代が本格化して実証的な研究が容易になったこと、またアニメが輸出メディアとして本格的に機能し始めたことが大きく影響している。電波メディアで地域に拡散される放送と異なり、吹き替えや字幕を加えてほぼそのままエンドユーザーに直接届くようになった。それがリスペクトと評価につながったのである。

 

ジブリ宮崎駿監督の海外評価もこうした情勢の変化を背景にワールドワイド化したものである。もちろんそれ以前も海外のアニメファンは存在していたが好事家(こうずか)に限られていた。それが一般化した時期があるのである。

 

本章ではこの過程で重要な役割を果たしたAKIRA攻殻機動隊を核とすることで、日本製アニメの「世界観とリアリズム」の発展、ワールドワイドへの拡大、さらにはコンピュータとネットが社会を変革し始め、人の意識が変わる時代性の境界との密接な関係について述べてみる。

 

クレディビリティ
本来は「リアル(現実)」ではなく「リアリティ(実感)」が問題、そんな齟齬もあった。いくら現実を再現しても観客が実感を覚えるレベルに到達しなければ意味がない。なので近年筆者(氷川竜介)は「リアリティ」だけでは考察が行き届かないと考え、作品世界に没入しストーリーとドラマを信じて感動するのに必要な要素を、信頼性や確実性を意味する「クレディビリティ」と呼ぶようにしている。「観客が架空の世界観を信用して自我を預けて没入するための力」である。作り手はいろんなレイヤーを統合してその力を仕掛けてくると考えて欲しい。「世界観主義」の中でも舞台設定や美術にこだわる志向はクレディビリティを高める手段として年々進化していった。そう考えたほうが推移を把握しやすい。

 

新世紀エヴァンゲリオン

エヴァも説明の必要はないかと思います

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第三次アニメブームとは90年代の現象を指す。1992年放送の美少女戦士セーラームーン起爆剤として始まり、国内のブームを決定付けたのは庵野秀明監督による新世紀エヴァンゲリオンとされている。1995年10月からオンエアされた全26話のテレビシリーズはいわゆる「アニメファン」と呼ばれて閉じていた観客層を大きく拡げた。さらには「深夜アニメ」と呼ばれる一群のテレビアニメを量産させる契機にもなり、アニメの可能性を発展させた。

 

現在ではエヴァの全作品に「原作庵野秀明」とクレジットされている。庵野秀明が渾身の力を込めて開発したオリジナル作品の点で注目に値する現象を起こした。しかも過去のオリジナル作品以上に「個人の作家性」が発露した時点で、観客層と市場を拡大して後世に大きな影響を与えることになる。アニメーション制作は集団作業なのでどうしても「個人の作家性」は薄められる傾向がある。それなのになぜ庵野秀明はアニメ作家として特別視されたのか。

 

エヴァの場合、14歳に設定された主人公・碇シンジという個から見た世界を軸に物語が展開していく。いってみればシンジの世界観が主役級なのである。その主軸に他の個性的な登場人物たちが関わり、別の世界観も編み上げられてはいるが、最終的には「シンジが世界をどう捉えるか」に収斂(しゅうれん)されていく。そしてシンジには庵野秀明の個が色濃く投影されている、つまり「私小説的なアニメ」とエヴァに関心を抱く大多数が考えるようになった。実際には実際には庵野秀明自身は自分の個性を分割して登場人物に投影しているし、作品と作家を同一視すること自体に疑問はある。しかし私小説と同列に扱われる域に達するほどの商業アニメは前例がなかった。ゆえに過去とは違うタイプのブームとなった。

 

そんな作品がテレビ東京をキー局として夕方18時台に放送されていた事実は、今では驚くかもしれない。本放送時から人気は高かったが本作の再放送時に深夜帯を選んだことでテレビアニメの流れが「深夜アニメ」に転換していくことになる。放送枠の点でも時代の変化をもたらした作品だった。

 

攻殻機動隊は日本製アニメが海外へ飛躍する契機となった作品だった。同じ年に公開されたエヴァは国内の新規観客層を開拓し、クリエイション、アート、デザイン、カルチャーに関心ある人々を数多くアニメに吸引して受容を拡大多様化した作品である。この二作がセットになって時代を変えたとも考えられるし、世界観主義の成熟が同期していたと見ることも可能である。

 

君の名は。

セカイ系といえば新海誠なわけですが…。

君の名はより天気の子のほうが好きだったりします。

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最終章は21世紀以後の変化を代表するアニメ作家・新海誠について語る。この20年余りはアニメ文化、産業の「収穫期」に該当すると考えている。エヴァの成功がリードした深夜アニメの隆盛、毎シーズン70本近い新作テレビアニメの定常化、サブジャンルの増加とネット文化との相互作用、作家性のあるアニメ映画の輩出、3DCGの進化、スマホゲームとアニメという新たな関係、ライブ空間への進出、聖地巡礼ブーム、高解像度化、配信時代の到来、国際時代の本格化などなど…。変化は数え上げればキリがない。

 

ただしまだまだ現在進行形のものも多くこれらの歴史化についてはまた別の機会に譲りたいと思う。本章ではそれらすべてを可能にした「デジタル化」に着目し、その代表として新海誠監督に話題を絞り込む。アニメ業界ネイティブではないところからキャリアをスタートし、いまや日本映画業界全体で突出した興行収入を可能とする監督として、アニメ文化を語るのに欠かせない独特の存在だからである。

 

新海誠監督の人気は「美しい風景」「意味深なモノローグ」「流麗なる音楽」を編み上げた詩的な映像世界に支えられている。何もかもを明示することで万人に誤解なくエンターテインメントを提供するアメリカ製アニメーション映画とは方向性が違う、観客の読解力と想像力を信頼し、個人の心を触発して美的な価値観を送り手・受け手で共有する点で「日本製アニメの世界観主義」を統括したものである。その発展がデジタル時代の進化と同期したのも特徴的である。

 

業界におけるアニメ制作工程のデジタル制作は1997年頃から本格化した。手書き作画・背景までは既存のフローを保持しつつ、ペイント、撮影(コンポジット)、編集、音響などをコンピュータ上で行うものである。アナログ時代からあった撮影技法も、フィルムを巻き戻すなどのリスクを冒すことなく重層化できるようになったことで、アニメのルック(見た目)が激変していく。部分的に明暗を調整し、外から差し込むフレア光などを加え、ディフュージョン(拡散)フィルタといったレンズ効果でボケ味を足すなど、画面の隅々までコントロールすることが可能となったのである。

 

新海誠監督が最初に大きな話題を呼んだ2002年の短編「ほしのこえ」も、30分弱の短編を一人で制作したことに加え、光の処理の美しさが注目された。21世紀のデジタル時代になってアニメ作家は「光による世界観それ自体をメディアとして物語ること」が可能になった。新海誠はそれを作品で実証した。

 

のみならず、2016年の「君の名は。」はメジャー向けエンターテインメントとしてシナリオ面を強化し、誰も予想しなかった驚異のメガヒットを実現(興行収入250.3億円)、続く2019年の「天気の子」(興行収入141.9億円)、2022年11月公開の最新作「すずめの戸締り」(興行収入131.6億円、2023年1月時点)と、日本映画界のトップランナーに躍り出た。

 

21世紀の深夜アニメでブームになった「聖地巡礼」とは「現実の風景をアニメ映像に読み替えることで、ファンが訪問可能とし現実世界とアニメ世界を往還する楽しみかた」のことである。その背景には携帯電話、スマートフォンの急速普及によってデジタルカメラが常時大衆の手元にあり、SNSを通じて現地で撮った写真を発信可能としたインフラの激変がある。つまり「世界観の虚実入れ換え」が複数の土地に対して可能となった。さらに送り手と受け手、受け手同士もそれを共有できる。これは21世紀ならではのアニメの楽しみかたである。

 

さらにテーマである「震災の残した傷跡へのアプローチ」に対しても「災害風景の中にも大事なものがあるかもしれない」と「世界観の再定義」が使われている。作家性と手段とが完全に一致している。

 

本書の締めくくりではエヴァンゲリオン以後、21世紀のアニメ作家を代表するのは新海誠だとしている。それは「世界観主義」「ハイクオリティ映像」「個から世界への直結」など多くの点で継承と発展が見えるからである。ことにその成果として興収百億円以上のヒット作を三作連続で送り出し歴史的分岐点をもたらした。そこに優先的に語るべき価値があると考えている。

 

まとめ

白蛇伝鉄腕アトム(とウルトラQ)からはじまる戦後アニメーションを、ヤマトやガンダムのアニメブーム、海外展開のAKIRA攻殻機動隊エヴァを経て新海誠にいたる現代までのアニメの変化点の通史(どう変わっていくか)を知ることができます。

 

昔のアニメは見れなかったりしますが、それでも半分以上は気軽に見ることができます。ただこれだけでも相当なボリュームがありますけどね。エースをねらえは知らなかったので今回見ておもしろかったです。ウルトラQはちょっと見る気しないかなあ…。

 

21世紀に補足するならエヴァ以後のセカイ系聖地巡礼ブームを起こした日常系、あと個人的に今敏を加えたいですね。異世界系(なろう系)は…これに接続できる…のか?